2024.07.16 ブログ
【外壁塗装を科学する】塗料の耐用年数とは〜塗膜の劣化の仕組みや寿命を延ばす技術〜
こんにちはマルミ美装工芸です。
外壁の塗り替えを検討する際に、塗料の耐用年数は重要な検討項目の一つです。わざわざ言うほどのことでもないですが、高い塗料ほど耐用年数は長く、安くなるにしたがって短くなります。当たり前ですね。塗料のランクごとに耐用年数が定められているのは皆さんご存じかと思います。
では、塗膜の劣化がどのように進行するのかを正確に理解できていますでしょうか?塗膜の劣化をミクロの世界で見てみると、より詳細に劣化の進行を理解することができます。そして劣化がどのように進行するのかを理解できれば、耐用年数に差が出る理由も理解することができます。
今回は塗膜の劣化(塗膜の割れ、変色、膨れ、ツヤビケ、チョーキング)がどのように起こるのかを詳細に解説します。
樹脂、紫外線、酸化チタンについて
塗膜の劣化を理解していただくために、まずは塗膜の層となる樹脂、塗膜を劣化させる要因である紫外線、そして塗料の色として含まれている酸化チタンについて簡単にご説明します。
樹脂について
外壁塗装の塗料は樹脂、顔料、溶剤、添加剤で構成されています。このうち樹脂はウレタン、シリコンやフッ素など塗膜の層となるものであり、塗料の性能を決める一番大きな要素です。
樹脂は工業的に生産されている合成樹脂なのですが、これをミクロの世界で見てみると1万個以上の分子が規則正しく並んで連なった一本の長い鎖のようになっています。この一本の長い鎖に含まれている分子の違いによってウレタン樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂などに分類されています。またこの長い鎖が束になってくっついたり絡まったりして塗膜を形成するのが1液塗料であり、化学反応により鎖同士が三次元構造になったものが2液塗料です(1液塗料と2液塗料についてはこちらの記事で詳しく解説しています)。
これらの合成樹脂に大量に含まれている化学結合した分子は、その種類ごとに分子が結合しているエネルギーの大きさが異なります。分子の結合エネルギーが大きいというのは、その結合を破壊するためのエネルギーがより多く必要だと言えます。
紫外線のエネルギー
紫外線とは高いエネルギーをもった電磁波です。夏になると『紫外線が大量に降り注いでいる』などと言いますが、目に見えない高エネルギーの電磁波が雨のように大量に降っていると言い換えることができます。
そしてこの雨粒ひとつひとつの紫外線は持っているエネルギーの量が波長によって決まっています。大量に紫外線が降り注いだとしても、ひとつひとつの紫外線が持っているエネルギーの大きさは波長によって一定です。
酸化チタン
酸化チタンは白色の顔料として様々な色の塗料を調色する際に用いられます。そしてこの酸化チタンは紫外線と反応し、周囲にある有機物の結合を破壊したり、そこから更に酸素や水分と反応して有機物を分解したりする特性があります(酸化チタンに関してはこちらの記事で詳しく解説しています)。
外壁塗装の劣化の2つの大きな要因
塗膜の劣化要因は、紫外線、雨や結露による水分、鳥糞や昆虫の体液などの酸性物質など様々な要因がありますが、一番の劣化要因は紫外線です。この紫外線による劣化は大きく2つに分けられます。
樹脂の結合の破壊
塗料の合成樹脂のほとんどに炭素(Carbon;C)が含まれています。炭素にはいわゆる原子同士が『繋ぐ手』が4本あるので、工業製品のみならず有機物として自然界にも多く存在し、我々人間自身も組成に炭素が含まれているので有機物です。
そしてこの炭素同士の結合エネルギーは紫外線の持つエネルギーよりも低いのです。そのため炭素同士の結合(C‐C結合)は紫外線によりその結合が破壊されてしまいます。
酸化チタンによる結合の破壊
上記のとおり、酸化チタンは紫外線が照射されると有機物の結合を破壊する特性があります。そのため、有機物である塗料樹脂は酸化チタンによりその結合が破壊されてしまいます。また、酸素や水分と反応することにより有機物を分解する作用もあるのですが、これは有機物を最終的に二酸化炭素に分解してしまいます。
外壁塗装の劣化をミクロの世界で見てみる
塗膜の劣化をミクロの世界で見てみましょう。炭素原子の直径は0.154ナノメートルです。単純計算で1センチに約6,493万個並びます。1㎠に5.77兆個並びます。さらに塗膜の厚みは0.1ミリ程度とされていますが、厚みも考慮すると天文学的な数値になります。1万個以上の分子が鎖のように連なっている樹脂であっても、ひとつの樹脂は人間の目には見えないです。また地表に届く紫外線の波長は310~400ナノメートルですが、ひとつの紫外線の大きさは0と考えられています。大きさが0というのはややこしい話なのですが、本筋とはずれてしまうので、そういったものすごく小さい世界を想像してお読みください。
C-C結合の破壊
まず、紫外線がC-C結合に当たるとそのエネルギーにより結合が破壊され、CとCに繋がれていない手が1つずつ出来ます(このような状態をラジカルといいます)。また紫外線が酸化チタンに当たると同様の現象が起きます。紫外線は日々降り注ぐのでこのようなラジカルがあちこちで発生します。すると近くにあるラジカル同士が手をつないで再結合します。
塗装直後の塗膜内部は樹脂や顔料などがある程度、均一に分散されているのですが、ラジカルによる再結合がいたるところで発生した結果、密度が高くなる場所ができてしまいます。密度が高くなった場所は塗膜が硬くなるため、そういった現象が年数を経て積み重なると塗膜の割れが発生します。
さらに再結合により分子内の結合パターンが変化することにより、分子の性質が変化することもあります。この性質変化により塗膜が黄色に変色することがあります。
樹脂の分解
酸化チタンには有機物を分解する効果もあります。酸化チタン周囲の樹脂が分解されることにより、ぽっかりと空いた空間ができてしまうことがあります。ここに水分が入り込むとそれがいずれ熱により蒸発し、塗膜の膨れができてしまいます(塗膜の膨れに関してはこちらの記事で詳しく解説しています)。
この樹脂の分解が塗膜表面付近で発生すると、分解された樹脂が雨風などで流されてしまいます。その結果、本来は樹脂によって塗膜内部に閉じ込められている顔料が露出し、塗膜表面がミクロレベルで凸凹になることにより光の乱反射が発生し、塗膜のツヤが失われます。
さらに樹脂の分解が進むと顔料が塗膜から離脱するようになります。この時に外壁を手で触ると手に顔料が付着します。この現象をチョーキングといいます。
外壁塗装の寿命を延ばす技術
塗膜の劣化をミクロの世界で見た結果、紫外線により樹脂が劣化していく過程をご理解していただけたと思います。この樹脂の劣化を防ぐことが外壁塗装の寿命を延ばすことに直結します。
樹脂の結合の破壊を防ぐ
樹脂の結合の破壊を防ぐためには紫外線より高い結合エネルギーを持っている樹脂を採用すれば良いということになります。フッ素塗料、シリコン塗料は耐用年数が長いと聞いたことがあるかと思いますが、これらの樹脂の結合エネルギーは紫外線のエネルギーよりも高いのです。それぞれC-F結合、Si-O結合が含有されています。
またこの二つの結合はその化学的な性質により塗膜表面に集まる性質があります。フッ素塗料とシリコン塗料は結合エネルギーの高いバリアにより塗膜内部が守られていると言うことができます。そのため、これらの塗料は耐用年数が長いとされています。
樹脂の分解を防ぐ
酸化チタンの化学反応により樹脂が分解されることを防ぐために、酸化チタンの表面をコーティングするという技術があります。これを採用した塗料がラジカル制御型塗料です。樹脂が分解されてしまうとツヤがなくなり、やがてチョーキングが発生してしまいます。ラジカル制御型塗料は樹脂の分解を防ぐことにより耐用年数を延ばすという新しい発想のもと生まれた商品です。
まとめ
外壁塗装の塗料は種類によって耐用年数が定められていますが、それは主に紫外線による劣化がどの程度の年数で発生するのかと同義であるということがご理解していただけたと思います。
ミクロレベルで外壁塗装を見た結果、樹脂の結合の破壊と分解により、さまざまな塗膜の劣化がマクロレベルで表面化することが分かりました。
塗膜の劣化の過程を詳細に理解できれば、その劣化を防ぐ技術となぜ耐用年数が長くなるかの理解も簡単にできたと思います。